本ラボラトリーの研究活動は日本学術振興会・科学研究費補助金によってサポートされています。2020年度基盤研究(A)採択課題「小惑星リュウグウから探る太陽系有機化合物の進化」では、はやぶさ2探査機による小惑星リュウグウからのリターンサンプルを分析しました。
有機化合物は宇宙地球環境に広く存在し、炭素(C)を骨格として、水素(H)・窒素(N)・酸素(O)・イオウ(S)を結合することにより、多種多様な化学構造をとることが大きな特徴です。近年の研究によれば、始原的な炭素質隕石には十万以上のCHNOSからなるイオン質量が検出され、複数の同位体からの寄与を考えても、構造異性体や立体異性体を含めて、数十万種以上の有機化合物が存在すると考えられる。今まで地球外物質に同定された化合物は全体の1%程度に過ぎません。また、小惑星回収物質や深海掘削岩石の試料量は極めて限られており、惑星物質から有機化合物に関する多くの情報を引き出すためには分析の感度や分離、質量分解を超高度化することが必須です。
本研究の目的は、惑星物質中に存在する数万に及ぶ有機化合物を今まで到達し得なかった超高感度・超高分離・超高質量分解能・空間分布で研究する新世代の研究手法を確立し、構造の多様性と反応過程を明らかにするとともに、微小惑星物質の有機化合物分析を成功させることにあります。
最新技術を駆使または開発して、1)有機化合物の検出感度において、現在のフェムトモル(10-15 mol)からアットモル(10-18 mol)まで高度化します。そのためには、2)化合物のイオン化などの効率の上昇だけではなく、分析バックグラウンドを極低減化する必要があり、有機化合物専用のクリーンルームを設置し、汚染防止技術も確立します。3)質量分析における分解能を高度化(質量分解能数十万)し、測定イオンの精密質量を用いて組成式決定を行います。4)分離をシリカモノリスカラムやナノ液体クロマトグラフィーなどを用いて高分離を通常化するほか、構造異性体や光学異性体も決定します。さらに、5)惑星試料表面の有機化合物をイオン化溶媒の吹付と加熱を組み合わせてマイクロメートルスケールでその場局所分析する手法を開発します。
本研究によって、非常に多様な混合物である惑星有機物について、これまでの 5〜10 倍の化合物を同定でき、起源と反応過程の解明に大きな成果が期待できます。また、今までミリグラム単位の試料が必要だった研究をマイクログラム単位の試料量で遂行できます。2020年に帰還したの「はやぶさ2」リターン試料の微小惑星物質の有機物研究に成功しました。また、2023年に帰還するアメリカNASA・OSIRIS-REx計画による小惑星Bennu試料も研究予定です。さらに、惑星試料のみならず、環境や生体などの様々な試料中に存在する極超微量有機化合物研究にも新たな展開をもたらします。