太陽系惑星物質にはさまざまな有機化合物が含まれ、われわれにつながる化学進化の観点からも注目されています。とくに最近では、小惑星探査機や深海掘削船により、今まで人類が手にすることのできなかった試料が得られるようになり、その解析が期待されています。ところが、それら微小微量試料では地球上での汚染が常に問題となってきました。本ラボラトリーではクリーンルーム環境で、これら惑星物質の微量有機化合物を高感度・高分解能で分析し、惑星環境における化学進化の解明を目指します。
2015-2019年度基盤研究(S)遂行課題「新世代の超微量惑星有機化合物研究:感度・分離と質量・空間分解の超高度化」では、新世代の分析技術を駆使して、炭素質隕石中の超微量有機化合物の構造や分布を研究しました。1)汚染を避けるためにクリーンルーム環境を整え、2)超高質量分解能クロマトグラフィー分析による有機化合物の構造決定、3)ナノクロマトグラフィーによる高感度検出、4)多次元クロマトグラフィーによるアミノ酸の光学異性体分離、5)有機化合物のその場局所分析、について高感度化・高分離化を行うとともに高分解能質量分析・有機分子イメージングを行いました。これらの手法により地球外有機分子の生成メカニズムと化学進化を研究するとともに、小惑星サンプルリターンによってもたらされる微量試料の有機化合物の分析技術を確立しました。
2020年度基盤研究(A)採択課題「小惑星リュウグウから探る太陽系有機化合物の進化」では、はやぶさ2探査機によってもたらされた小惑星リュウグウ試料を研究しました。多くの成果を得ることができ、研究成果を公表中です。
小惑星リュウグウの可溶性有機分子については、"Soluble organic molecules in samples of the carbonaceous asteroid (162173) Ryugu"の題目で、アメリカ科学雑誌 Science, 379, eabn9033 (2023). DOI: 10.1126/science.abn9033に発表されました。今後の成果も順次公表します。また、2023年9月に地球帰還するOSIRIS-Rex探査機によって採取された小惑星 Bennu試料も研究する予定です。